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企業流出を防げ!官・民すべて 益をもたらしたエピソード
工場拡張に規制の壁 <県・市・企業・市民が納得するシナリオづくり>
「現在の場所でやっていきたい」某製造会社オーナーの思い
某製造会社のオーナーから、以下のような相談を受けたのがこのプロジェクトの始まりでした。
早急に本社工場を増設する必要があるが、現在の敷地はすでに建て増しを繰り返しており、空きが無い。自社の周囲には広大な田畑があるが、市街化調整区域、農業振興地域に指定されており工場建設はできないとのこと。市内で工場用地を探したが無く、市外や県外に工場用地を求めるよりほかに方法はないのか。
こうした情報を知った県内外のゼネコンや大手ハウスメーカーは、市外または県外での工場建設を提案してきており、返答の期限が迫っているとのこと。
オーナーとしては、長年この地でやってきた愛着と地域への恩があり、この場所でやりたい、という思いを捨てきれずに相談に至ったということでした。
サンコウ設計の戦略
工場拡張に立ちはだかる法規制
今回、工場建設の壁になっているのが下記の3つでした。
- 市街化調整区域
- 農業振興地域
- 地元利害関係者
- 市街化調整区域:都市計画区域のうち、市街化を抑制する区域に指定されており、この区域内では開発行為、建築行為が原則として禁止されています。
- 農業振興地域:市町村が将来的に農業上の利用を確保すべき土地として指定した区域で、農地以外への転用は禁止されています。
つまり、法律の壁と、地元の古いしがらみが三重の障害となっていたのです。
行政への働きかけ
サンコウ設計では、まず1と2を解決すべく行政を説得するため、下記のシナリオを描きました。
某オーナーは県内でも有名な企業の代表で、これまで地域の発展に貢献してこられた。県政や市政とのつながりも深い。
そんな企業が、工場拡張しかない状況で、規制が壁となり、やむを得ず県外・市外へ出ていかれようとしています。主導する県内外のゼネコンやハウスメーカーが、県や市からこの企業を奪い取ろうとしていると言っても過言ではありません。
大勢の社員が県外・市外へ行くことになれば、当然その家族も転出する。「人口増加」「企業誘致」と言っていながら、こんなことが許されて良いのでしょうか。
実際、このように県や市の上層部へ働きかけを行いました。
地元への働きかけ
次に、地元の理解を得る必要があります。この企業周辺は、昔ながらの農地のため灌漑用水が通っています。さらには大和盆地の稲作用水として吉野川分水も通っており、それがスムーズにいかない原因となっていました。
そこで、サンコウ設計は、地元利害関係者へこう説得しました。
この企業は地元に密着した優良企業で、多くの雇用を生んでいます。さらに、様々な社会奉仕活動を行い、地元の団体は元より水利関係機関へも大きな協力をされています。もし工場移設となれば、そうした恩恵を受けられなくなりますよ。
こうした行政のジレンマは日本全国で起こっている
県も市も、担当職員は「決まり事ですから、できません」と簡単に言います。職員は、公務員として仕事を遂行しているだけで、この言葉がどれほどの大きい意味を持つかはおそらく考えていないのでしょう。
また、1つのケースを許可すれば、「なぜ、あそこだけ許可した」「ウチも許可出して」と責められる可能性があり、「今後が面倒だから」ということもあるでしょう。
しかし、その一職員の即答が、将来、県や市に大きな不利益をもたらすことにつながりかねません。また企業も、地域に根差し、貢献していきたいという思いがありながらも、「規制」の下に移設を余儀なくされる。「規制だから仕方がない」と選択肢が他にないと思っているのです。
そんなふうに多くの企業が県外・市外へ出ていってしまったら、地方は死に絶えます。こうしたことが全国のあちこちで起きています。
こんな不条理に一市民として黙っておれない、という思いも手伝って、この難題に取り組みました。
大きな山が動いた。
まず外堀を埋めるために、県の上層部へ掛け合い、「なんとかする」と言っていただくことができました。
そして、市、水利関係機関、法務局、地元の土木事務所に働きかけて、問題点をクリアし、この土地に工場を建ててもよいという許可を取りつけました。
この時、各担当者の心中を察し、それぞれを守るための準備もしていました。例えば、第三者から「なぜ許可を出したのか」と問われても、誰もが納得する答えをきちんと用意して、どの担当者も責任やリスクを負わないよう綿密に計画を立てました。
さらに「高さ制限」の壁が
建物の高さ制限がまた立ちはだかります。製造会社は、医薬品の製造に高低差を利用しており、最低でも建物高さ25メートルの工場が必要でした。しかし、法律でこの区域は高さ15メートルと定められています。本来、農地の日照を確保するために設けられた規制。周辺の農地に影響がないのであれば、この規制は意味がありません。これについても許可を取りつけることができました。
結果
- 企業は、慣れ親しんだ土地に工場を建設することができる
- 社員は、毎日の長時間の通勤や、移転・単身赴任などの心配がない
- 県や市は、生産人口や企業の流出が避けられ、税収も確保できる
- 地域住民は、これまでどおり企業の社会奉仕活動(清掃、祭りなど)を享受できる
- 地元の各種団体・機関は、これまでどおり協力を得られる
- 土地の所有者は、比較的良好な条件で土地を売ることができる
このように、県・市・地元・企業すべてに納得していただくことができました。
サンコウ設計の思い
- 一部の人だけが得をするようなことがあってはいけない
- 私利私欲のためだけに動いてはいけない
- 社会に喜んでいただく仕事をする
これが私たちの信条です。
将来を見据え、世の人に「良かったな」と言ってもらうにはどうすればいいか。官・民すべての人に喜んでいただくために、悪戦苦闘しました。結果、社会的な使命を帯びた仕事ができ、私たちも大変うれしく思います。
人口増加で日本中が潤っていた時代にできた、昔ながらの法規制やしがらみが、今もまだ多く残っており、それによる不利益が日本各地で生じています。理由にならない理屈が通ってしまう。それらを壊していかないと、私たちに明るい未来はありません。
公務員の方々には、「単なる自分の仕事」と簡単にこなさず、将来を見据えて仕事をしてほしいと切に願います。
そして民間もあきらめないで挑んでいただきたい。社会的に必要なものであれば、きっと社会が味方になってくれるはずですから。
サンコウ設計はそういったお手伝いもしていきたいと考えています。